2009年05月01日
三木義一著『給与明細は謎だらけ』
仕事柄給与事務もやっているから、ここに書かれていることは基本的にわかっているつもりだ。だからというわけじゃないが、どうも納得できない部分もある。たとえば通勤費の扱いである。
所得税の方は通勤費が10万円未満は非課税扱いなのだが、社会保険料計の算出に当たっては、これを給与に含めて算出する。つまり通勤費のぶんだけ社会保険料計が上がることになる。
そもそも通勤費とは収入なのだろうかと思うのだ。社会保険料計は標準報酬月額から算出するのだが、その標準報酬月額のもととなる報酬は、賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他どんな名称であっても、被保険者が労務の対償として受けるものすべてを含むとあるのだ。しかし通勤費は労務の対償なのかと思うのだ。だって仕事をするために移動する費用であって、決して労務の対償ではあるまい。少なくとも所得税の方で非課税としている方が合理的である。これも社会保険庁の陰謀なんじゃないかと思っている。
しかし私はこうした事務仕事つくまでは、給与明細の仕組みなどどうなっているのか知らなかった。どのように手当が決められ、算出され、その上で社会保険料や所得税や住民税の額がどのように決められていてのかなんてわからなかった。結局気になるのは手取りの額である。最終的にいくら手元に残るかが、すべてであった。
多分多くの方がそんなもんじゃないかと思う。それくらいややっこしくしてあるのだ。何故かと言えばわれわれサラリーマンに文句を言わせないためなのだ。税金や社会保険料の徴収に関心を持ってもらうとお役所としては困るのだ。徴収の仕組みをわざと複雑にして、煙に巻いているのだ。しかも納税の義務を本来個人にあるものを会社にさせる。税務署や社会保険事務所の仕事を会社の経理にさせること自体、職務怠慢だ。それに対して何も見返りがないのだ。あくまでも義務だとしてあぐらをかいているのである。
そしてとにかく取ってしまえばいいわけで、そこには個人個人が税金や保険料を納めているという意識をなくさせれば、後はそのお金でやり放題というわけだ。
だからこの著者はわれわれサラリーマンを“羊”と称するのである。これは読んでいて無性に腹が立った。専門家からすればわれわれサラリーマンはむしり取られるだけの“羊”に見えるのかもしれないが、どう考えても言い過ぎであろう。少なくと専門家であるなら、あるいはわれわれサラリーマンの立場に立つなら、こういう言い方はすべきじゃないだろう。これだけでこの人の品性が疑われる。減点★四つである。
私はこうして給与事務をやるようになってから、あるいは自分で確定申告をするようになってから、税金や保険料を納めているという意識が生まれた。
日本のサラリーマンはいつの間にか税金や保険料を納めているという意識を給与天引きというシステムで薄められてしまっている。だからそれがどのように使われているかなんて意識もほとんどない。もし個人で納税なりすれば、国民としての義務を果たしているという意識も生まれるだろうし、その使い道が気にかかるだろう。強いては日本の政治にも目を配るようになると思うのだ。そうなれば社会保険庁のいい加減さは絶対に許せないはずだ。
逆にこうしたシステムをこのままにしておくと、本来義務を果たし者の対価として補償が受けられるという意識も希薄になり、いつの間にかお上がしてくれるんだから、もらえるものならもらわなきゃ損だという意識がだけが生まれてしまう。それが納税や保険料を納めた者の権利だということを忘れているのである。これらは意識の問題かもしれないが、結構こうしたことをきちんと自覚することは大切なんじゃないかと思うのだ。給与天引きという複雑で不明瞭な徴収はやめるべきだと思う。この著者がわれわれのことを平気で“羊”なんて言うのを許しちゃいけないと思うのだ。
文句ばかりしょうがないので、読んでいて“なるほど”と“へ~え”と思ったことを書く。まずは“なるほど”とおもったことは、年末調整の話から。年末調整は年末の時点で判断する。従って婚姻届を出すなら年末に、離婚届を出すなら年が明けてからにしたほうがいいということ。つまり婚姻届を年末に出せば、その年はたとえば配偶者控除を受けることができるし、こぶつきであれば、扶養親族が増えることになる。逆にその年に離婚届を出せば、その年は配偶者控除や扶養親族控除が受けられなくなる。この論理から言えば子供も年末に生まれてくれた方が有り難いことになる。
“へ~え”と思ったことは、最近派遣労働者が増えてきた理由というか促進した理由に「消費税」の存在が無視できないということ。通常派遣法が改正(改悪)されたことや、正規社員を少なくして派遣社員を使うことで人件費を抑制するために、派遣が増えた理由とよくされるが、それだけでなく消費税の問題も派遣が増えた理由だというのだ。
どういうからくりかというと、消費税は事業者の売上に5%の税率で課税されるが、その際仕入をして負担した消費税は差し引くことができる。正社員の給与は仕入でないので、いくら社員に給与を支払っても消費税には何ら影響はない。しかし派遣会社に支払う派遣料は仕入となり、その分が会社の売上にかかる消費税から差し引くことができるというのだ。ということは、同じ人件費がかかるなら派遣社員を使用した方が会社としてはメリットがあるというものだ。しかもアホな社員よりもスキルの高い派遣社員の方が利益も効率も上がるしね。
この手を利用して、派遣会社も自社の正社員の数を減らし、別の派遣会社を作り、そこから派遣してもらえば消費税負担が減る。しかもその新しい派遣会社は、設立して2年間は消費税納税義務がないので消費税がかからないのだ。そして2年たったら派遣社員を移動して、また別の会社を作る。そうすればまた2年間消費税がかからない。これを繰り返すというのだ。なるほどこれは脱法行為じゃない。頭のいいやつはうまいこと考えるもんだ。
評価
★
書誌
書名:給与明細は謎だらけ―サラリーマンのための所得税入門
著者:三木 義一
ISBN:9784334035044
出版社:光文社 (2009/04/20 出版)光文社新書
版型:248p / 18cm
販売価:798円(税込)
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- by kmoto
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