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直筆原稿『夏の闇』

 1月7日の朝日新聞に「没後20年 開高健の代表作『夏の闇』直筆原稿、再現し出版」と文化欄にあった。それは開高さんの代表作『夏の闇』の直筆原稿を原稿用紙408枚ををそのままの形で限定700部愛蔵版で出版したものである。定価15,000円である。発売元は開高健記念会である。

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                    梱包用の外箱に入っている

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                   梱包用の外箱をとった。原稿は箱入り

   


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                      上箱をとり、原稿の表紙を見る



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                           1ページ目



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                   原稿用紙408枚の厚さは約4センチくらい



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                           おまけの色紙



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              直筆の「出版人マグナ・カルタ九章」(これもおまけ)


 とにかくこの記事を読んで、開高健ファンとしては欲しくなり、本代を送り手に入れた。初めて原稿用紙408枚分はこんなに重いんだと感じた。梱包用の包装を解いて、中身を取り出してみると、原稿用紙一枚一枚の紙質が厚い。
 最初は直筆原稿の出版だからわざわざ紙質の厚い紙を使ったのかなと思ったが、同封されていた開高健記念会会長坂本忠雄さんの「直筆原稿『夏の闇』をめぐって」を読んでみるとそうではないらしいことがわかる。
 それはに『オーパ!』や『もっと遠く!』、『もっと広く!』の装幀を手がけた三村淳さんの提案でこの本の企画が生まれ、「原物の原寸大で四方断ちにして、紙質も原物に近いものにした」と書かれている。ということは、開高さんは結構厚みのある、しかもしっかりした原稿用紙を使われていたことになる。
 さらにそれを読んでみると、「活字離れから始まって安易に陥りがちの現在の読書傾向の風潮に対して、改めて本格的な小説の成り立ちに立ち合ってもらい、これからの文学志望者を含む、真摯な文学者に覚醒を促したい」という主旨も書かれている。しかも「今日の厳しい出版事情から既成出版社では難しい、この貴重な刊行を開高健記念会が果たせたことを喜んでいる」とも書かれている。
 だろうなと思った。どう考えても既成の出版社ではこの本は作れない本だろう。まず部数が見込めない。もしかしたら既成の出版社ではもう採算が合う本しかもう出版できなくなっているのかもしれない。
 ここにも書いてあったが、開高さんの原稿は書き直しが少ない。だからそのまま読み進めることができる。あの丸い文字が、いかにも開高さんの人柄を表しているようだ。

 『夏の闇』は89年12月に亡くなった開高さんの弔辞を読んだ司馬遼太郎さんが、天が開高さんに与えた才能をこの一作を書くことで返礼に十分ではないかと思わせるほどの作品と、その作品を絶賛したものである。
 内容は、ベトナム戦争で戦争の悲惨さから自己を見失った「私」が、ドイツの大学で博士論文を書き上げた「女」と10年ぶりに再会した。ベルリンで別れるまで二人はひたすら眠り、食べ、交わり、そして「私」はまたベトナムの戦場へ帰って行くというものである。作品は当時文部大臣賞を打診されたが、開高さんはそれを辞退した。確かエッセイで作家が国から賞をもらってはならないということを書かれていたと思う。しかしこの作品は世界各国で翻訳され出版されている。

 私はこの作品は作品集と全集はもちろん、単行本でも持っている。



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 さらに特装版も古本で手に入れた。それがこれである。



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 これは当時2,500部作成され、2、440部までは、奥付の検印紙に肉筆で”Ken”とサインされていて、残り60部は漢字で「私」とサインされているらしい。私の持っているのは”Ken”とサインされているものである。割と低価格で手に入れることができたと思う。



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 この本は一部アンカットになっている。一部開封されているので、そのため古本価格が安くなったものと思われるが、私が唯一持っているアンカット本である。



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 ちなみに本のページがアンカットになっている理由は、この本が特装版ということだろうが、もともと本はアンカットで出版されていた。栃折久美子さんの『モロッコ革の本』に詳しい説明が書かれている。

 「ヨーロッパでは、本はもともとアンカットの仮とじ本の形で出版され、それを買った人が自分の好みの革装本に仕立てさせる、ということが、ごく当り前の習慣として長い間つづいていた。国王や貴族はおかかえの製本師を持ち、紋章入りの豪華な本をつくらせていたし、街の製本師もたくさんいた。製本の工業化は、十九世紀に入ってからはじまった。
 革に代わる材料として、表紙用のクロスが発明されたのは、一八二〇年代のことだと聞く。製紙機の発明は一八〇〇年頃、最初の活字鋳造機がつくられたのは一八二二年といわれている。ややおくれて実用化された写真製版を加えると、書物の歴史にとって劃期的な四つの発明がここで出揃ったことになる。書物は大量につくることがずっとやさしくなり、その外形も、今あるものとほぼ同じになった。
(略)
 ちょうどその頃、日本に西洋式の製本術が伝えられた。(略)アンカットの本をペーパーナイフで開きながら読み、個人の所蔵本としてルリユールさせる、あるいは自分でルリユールするという楽しみは、ついに日本では読書につながる習慣にはならなかった」

 ということで、ヨーロッパでアンカット本の習慣が衰退し、大量生産される本の技術が広まった頃、その技術だけが日本に伝わったことを教えてくれる。今ではヨーロッパでもアンカットの仮とじ本も少なくなっているようだ。この本は特装版ということで、わざわざアンカットの本を作ったのだろう。

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